信州大学の三崎隆です。学会長就任に当たって会員各位にご挨拶申し上げます。
会長職は身に余る重責ですが,これまでの初代会長,前会長の薫陶を生かし,学会のさらなる充実,発展のために尽力する所存です。
グローバル化の進展や人工知能の進化など社会の加速度的な変化を受けて,日本では今,志高く未来を創り出していくために必要な資質・能力を子供たち一人一人に確実に育む学校教育を実現しようとして改革が進んでいます。その一つが子どもたちに対して資質・能力の確実なる獲得のために主体的・対話的で深い学びを促す教育の実現であり,もう一つがそれを一人の力だけではなく,カリキュラム・マネジメントによってチームの力として成し遂げる社会に開かれた教育課程の実現です。
本学会は前者に対して一貫して,学校教育における教科教育の通常のカリキュラム下での子どもの生の姿を通して追究してきました。「学習者をみる教育研究」の理念です。セミナーや研究会における成果として,教科教育の授業等を対象として,その場面での学習者や教師を徹底的に観察・分析し,どのような様態になっているのかそれは初期状態からどのような変容を遂げているのかいないのかを,万人に納得してもらえるような研究手法に基づいて事実を詳細に示して議論を積み上げてきました。どのような学術の理論によってどのような実践がなされた結果として,学習者の生の姿にどのような資質・能力が獲得されているのかを価値付けてきたところです。この理念の実現に向けた着実な成果の蓄積が本学会の独自性を担保しています。今後,ますます本学会の意義が高まります。
一方,本学会は後者に対して一貫して,学術研究者と実践研究者の一体となった臨床的教育研究を追究してきました。それが「学術研究者と実践研究者の新たな関係」の理念です。ともすると,学術研究者は学術成果として理論を主張し,実践研究者は独自の実践の積み上げを主張して双方が平行線を辿ることが往々にして起こります。しかし,本学会は様々な学術知を学校現場での実践に有機的に結びつけ,様々な実践知を各種学会での学術成果と融合させてきた蓄積を有します。本学会で発信される臨床研究の諸知見には,両者の有機的な連携協力に基づいたそれに繋がる膨大な学術知と実践知に支えられています。この理念の実現に向けたこれまでの会員諸氏の臨床の知の地道で継続的な発信の成果に依るところです。本学会における学術研究者と実践研究者の一体となったチーム構成による大いなる成果が独自性を担保していると言えます。今後,学術研究者と実践研究者の協働による研究成果の往還がますます求められます。
会員各位には上記2点のより一層の充実に向け,今後ともお力添え願います。それによって,学術者と実践者の学習者視点に立った協働をより充実させるとともに,より多くの人の心に響く学術と実践の往還の実現を共に目指しましょう。
2017/4/1
上越教育大学の西川です。前学会長の戸北先生から学会長を引き継ぐに当たって、会員各位にご挨拶申し上げます。
本学会は「学習者をみる教育研究」、「学術研究者と実践研究者の新たな関係」という二つの理念のもとに設立されました。臨床教科教育学セミナーを積み上げ、質の高い研究発表が積み上げられています。その成果は学会誌においても蓄積がなされています。それらが認められ日本学術会議協力学術研究団体となりました。このような外形的な成長を越えて、本学会が成長し続けるには何が必要でしょうか?私は二つのことが必要だと思います。第一に、本学会の独自性です。第二は、知の発信です。
本学会は学校教育の大部分を占める教科学習を対象として、その場における学習者や教師を徹底的に観察・分析するという、「学習者をみる教育研究」を柱としています。また、教育の学術と実践の融合を、両者の協働の中で実現しようとする「学術研究者と実践研究者の新たな関係」を柱としています。この二つの柱は、本来、教育学研究でやるべきことでありながら、不十分であった部分です。この二つを真に行い続ければ、本学会の独自性は担保されると考えています。我々は、臨床教科教育学を、生の教育現場から離れた文献研究や、実践を伴わない教材開発、また、質問紙調査のみの量的研究にならないよう気をつけなければなりません。それらの価値を否定するものではありませんが、そうなれば本学会の独自性は失われます。これが、第一の本学会の独自性です。
独自性を保持していれば、他の学術では見いだせない新たな知を生み出せます。事実、我々は多くの貴重な知を生み出しています。しかし、もし、それらの知が本学会の中でのみ貫流しているならば、本学会の存立の意味はありません。それらの知は、学校の実践現場に影響を与えなければなりません。他の学会で参照され、新たな知の端緒にならねばなりません。そのためには、会員各位が、臨床教科教育学が明らかにした知を、各位の場において発信することが必要です。これが、第二の知の発信です。
会員各位へ上記二つのことを実現するために、お力を頂きたいと願います。それにより、学術において誇り高い地位を確立すると共に、自らの心に響き、多くの人の心に響く学術の実現を目指しましょう。
2010/4/1
大学も、学会も、学校も、今や、いろいろなところで旧枠組みの再検討が行われています。学会をまとめている、日本学術会議の提案も大きく変わってきました。個別学会の知恵をまとめて、地球環境問題やジェンダー、そして、21世紀の人材養成に向けて提案しています。学校教育への改革や期待についても、文部科学省はじめ各種学会、経済界からの提案が交錯しています。多くの提案は現状を憂い、21世紀には「こうあるべきだ」「このような教育をしなければいけない」という形式のものです。しかし、私たちは、「ちょっと待ってよ、ちょっと違うな」と思っています。それは、学校現場から見た現状を必ずしも反映していないと感じるからです。学校は一体どんなところで、何が起きているのか、子どもは何を見て、どのように学んでいるのか、学習場面を踏まえたところの「なるほど、そうだ!」と実感できる提案が見えないからです。 ところで、私たちは、このたび、臨床教科教育学を立ち上げました。その理由は、上記のような疑問が常にあったからです。教育実践という一般的な表現とは違った臨床と言う表現をとりましたが、臨床という言葉の響きには「ベッドサイド」をイメージされる方が多いと思います。本学会が対象とするのは病気で悩んでいる患者さんではなく、学校で学んでいる普通の子どもたちです。学校では、子どもの学びは多様です。学びに苦しんでいる子どもいれば、学びが上手な子ども、仲間となら何でもできる子どもがいて、多彩です。学校現場、すなわち、「学びが行われている場、臨床の場」で子どもに寄り添って、学びのようすをつぶさに見ていくことから学びの方法を発見しようと考えています。研究の方法も多様で、これまでのような型にはめる法則定律主義ではありません。学校の教師という、専門家集団の多彩な方法と徹底的にリンクする学会を目指しています。多くの方が会員となり、学びの場から見た、臨床の知の確立を目指そうではありませんか。
2002/9/1
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